冒されていった、

 ――まるで手ごたえのない毎日が続いている、と思うと、溜息がもれた。
 今日は朝からよく晴れていて、(ちょうどいい)と考えながら家を出た。
 村の男達が打ち合いをしているのを見ていると、自分で選んだことだと理解しても、生ぬるさを感じてしまう。
 覚えている限り、戦いがあった。それも命をやり取りする戦いだ。血の臭いに慣れて、人を斬ることに麻痺してしまったこともある。それだけ血を浴びてきた自分が、木刀での打ち合いを眺めているだけだとは、運命の流転だけは分からないということか。
(何故、俺はここで生きている?)
 死ぬことの出来ない体で、死に場所を求めるように、過去の憎しみから貴族達を殺していた。
 さまよっていれば、こういう体にした張本人に会えることを信じて。――結果、その妖狐と再会することは出来た。けれど死を望まなかった。その理由は、……。


「……アテルイ! 皆様、お疲れ様です。少し、お休みしたらいかがですか?」
 詞紀が、女達を二、三人連れて、茶と握り飯を持ってきた。
 こういうことをするとは聞いていない。目を見張るアテルイの前で、詞紀は女達とともに茶と握り飯を配って回る。
 最後に自分のところに来ると、穏やかな笑みを見せて食事を勧めた。
 不思議なことに、腕を伸ばして彼女を抱き寄せたい思いに駈られる。しかし人目のあるところでそんなことが出来るほど、色恋沙汰に慣れてはいない。
「ああ、悪いな、詞紀」
 あまり動いていないから、腹はそれほど空いていなかったが、それでも他の男達がうまそうに握り飯を頬張っているのを見ると、食べようという気にさせた。
 握り飯にかぶりついて、何度か咀嚼しながら、(退屈な日だ)と心の内で呟くと、なんだか瞳の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
 何度もまばたきをする視界の先に、詞紀の笑顔は変わらずにアテルイを見つめている。
 ――相棒から人間への憎しみを抜いたのは、彼女の毒のせいだと思って憎んでいた。
 しかし、その相棒は詞紀の渡唐を涙を呑んで見送ったのに、自分は彼女を側に置くと決めた。では、その毒に最も強く影響されたのは結局誰だったか――?


 左手で、彼女のつややかな黒髪を撫でながら、アテルイは微かに笑みを見せた。
「今度晴れる日があれば、二人で遠出でもするか、詞紀」
 頬を染めた詞紀が少し驚いてみせてから、はにかんだ表情で微かに頷いて返す。
 こうしてまた退屈な日々は続いていく。