顔を真っ赤にして駆け去っていった少女を見送ってから、アテルイはきびすを返し、歩きながら首をかしげた。
「あの子は喜んでいたみたいですね。よかった」
待っていたように詞紀が走り寄ってきて、そう言った。
「見てたのか、女」
「アテルイが余計なことを言って、あの子を泣かせてしまいそうだったから」
「ちゃんと礼は言った」
詞紀の横を通り過ぎながら答えた。その後ろを彼女がついて歩く。
――《土蜘蛛》の村で世話になり、村人からの信頼も厚くなる中、アテルイは村の少女から花冠をもらったのだった。
それを話すと、詞紀は「その子の思いに応えなくては」と言って、同じ物の作り方を教えてくれた。
そして今、その花冠を少女に渡した後なのだけれど、
「やさしい顔になりましたね、アテルイ」
「あ?」
足を止めて振り返った。疑いのない笑顔がアテルイを見上げている。
「何を言ってんのか分からねえな」
「ですから、京で会った時より、ずっと穏やかな顔をするようになった、と思ったのです。あの時はとても恐ろしかったから」
意外と剣の腕が立つ彼女が「怖い」と言うと、なんだか馬鹿馬鹿しくなって、アテルイは苦笑した。
「だったら、お前もよっぽど笑うようになった。京で見た時は人形みてえに、幻灯火達にくっついていたからな」
「……くっついていた、というのは、余計です」
今も詞紀はきつい目をしてアテルイを睨む。そういう表情も生き生きとして、目をそらせなかった。
また彼女が笑うとしたら、何をしてやれば喜ぶだろう、と考えて、また前を向いて歩き出した。
「少しだけ、稽古つけてやろうか」
「え!」
足早に後を追う足音が近づいて、アテルイの横に従って嬉しそうな笑顔を向ける。
「よろしくお願いします!」
無邪気とさえ思える視線を受けて、ちょっと目眩を覚えた。
しかし、すぐに我に返ると、「気をつけろ」と呟いて、直後に詞紀は行き交う人の一人と背中がぶつかった。
互いに頭を下げる二人を、少し距離を開けて見つめながら、アテルイは他の野次馬といっしょになって笑った。
西に日は傾き、つかの間の平和な一日が、また終わろうとしていた。