目を開くと、眠気というものも一切なく、頭の中もすっきりとしていて、気持ちのよい目覚めだった。
昨夜のこともよく覚えていないほど、深い眠りに入っていたのか。しかし自分を抱きしめる腕の主に気が付くと、夜はつまりそういうことだった。と、思うと、記憶は少しずつよみがえってきて、頬は火照ったように熱くなる。
彼の胸に手を重ね、そっと視線を上げていくと、きれいな寝顔が近い距離にあって、思わずほっと息をついた。
頬に手を触れると、不思議な気持ちになって、近い寝顔へさらに顔を近づける。
普段、自分から口づけをすることは少なかった。というより、何かの折りに、彼の方から口づけをしてくる。そのせいか、自分から唇を近づけると、いつもよりも胸は高鳴った。
あと少しで、二つの唇が触れる。という時に、相手の目が開いたので、詞紀は布団の中で体をねじって顔を天井に向けた。
「何をしようとしていた?」
詞紀の上にかぶさって、空疎尊はいつもの冷笑を口元に作った。
「いえ、その、何も……」
視線を泳がせながら、頬の引きつるような笑みで言葉を濁す。
「ほう? 何もないのに、あのように近い距離で我の顔を見ていたのか」
「……それは、その、空疎様が美しい顔をしているから」
それは本当のことだったから、相手の顔に視線を止めてそう言った。
「美しければ、我が眠っているとずっと眺めているのか」
「見ていては、いけませんか」
「ならば、我が、今こうして貴様の顔を眺めて過ごしていても構わぬのか?」
詞紀の頬に、空疎尊の手がやさしく触れた。その眼差しは揺らぐことなく、詞紀を見つめている。
それだけで頭の中はくらくらと揺れて、判断がつかなくなっている時に、空疎尊の唇が彼女の口をふさいでくる。
――自分から口づけをするのは緊張する、というのは撤回。
いとおしい人が側にいて、見つめ合っているだけで、視界はゆらめくし、胸が苦しい。
食事の支度が整った、と部屋の外で声がした時、重ねていた唇が弾かれるように離れた。