微かに揺れる小さな灯りの下で、針で繕い物をしている途中、ふっと顔を上げた。
小屋の中心に立つ大黒柱に背をもたれて、恋人は片膝を立てて顔を伏せている。
「……アテルイ?」
小声で呼んでみたが、顔を上げる様子はなかった。視線を感じたのだが、どうやら気のせいだったらしい。
気を取り直して手元に集中することにした。
――昼頃、街へ出稼ぎに行っていた村の若い郎党が、ここから最も近い街から帰ってきた土産物の反物を、特別な日の衣装のために仕立てることにしたのだった。アテルイはといえば、その街に行くのに同行していないのと、男であることから、美しい反物に興味を示してはいなかったが。
(アテルイがいつもと同じ格好でお祭りなどに参加するのは、さびしいわ)
それに、他の若い男が着飾ったりするのに、自分の愛する人だけがそうでないのはなんだか悔しい。
そう思うと、また顔を上げた。今度は視線を感じたのではなく、彼の顔を見たかったからだ。
男はやはり同じ姿のままである。
(疲れたのかしら)
手を休めて、そっと立ち上がった。掛けるものを拾って、側に近づき、その肩に手を置くと、たちまちその手を大きな骨張った手が掴んで、薄暗い内でも表情が分かるぐらいに振り上げた顔と詞紀の顔とが近づいた。
「……お、起きていらしたのですか」
「ああ、随分と集中していたな、詞紀」
「それは……当たり前です。下手な出来にしたくありませんから」
――アテルイに身に着けて欲しいと思うから、失敗したくないと思うのは当然である。
「そんなことより、寝るのならば横になって下さい。うたた寝では疲れが取れませんよ」
「じゃあ、そうする」
短く答えると、さらに強く詞紀の腕を引いて、胸の方へと掻き抱く。その形のまま、床の上に倒れた。
「あ、あの、私は、まだ……っ」
もがこうとしても、アテルイに抱き留められた腕は思うように動かない。
「黙ってろ。でないと、眠れねえだろうが」
額の上で、彼の呆れる声が呟いた。「うう」とうめいて、詞紀は声に出して抗うのをやめた。そうするとアテルイの仕業に甘んじているようで、頬が熱くなっていった。
それと同時に胸の内側から締め付けられるような痛みが広がっていく。それは甘さを伴う息苦しさだと知っている。その苦しさを抑えるためには。
――彼の腕の中で身をゆだね、詞紀はそっと目を閉じた。自分もやっぱり疲れていたのか、瞼が重く落ちかけていく途中、額に熱い唇が触れたような気がした。