毛布の中で何度も寝返りを打った。
昼間は、いつもの仕事に加えて、気まぐれに恋人が刀の修練に付き合ってくれたので、体が疲れていた。なのに眠れない。
(……足が冷たい……)
何度も両足をさすって温めようとするけれど、元々どちらも冷えているので、なかなか熱は戻らなかった。
眠らないと明日の仕事に響く。……明日は何があったかしら、と考えていると、アテルイが村の男達といっしょに遠出をするのだ。
自分が早く起きて食事を作り、見送らなければ。
役割が頭の中に浮かぶと、眠ろうと焦って、やっぱり眠りにつくことが出来なくなる。
「……考えすぎんな、詞紀」
低い声が頭上に降ってきて、目を上げると枕元にアテルイが片膝をついて見下ろしていた。
「アテルイ……私が起こして……」
「近くでもぞもぞ動いてたら、俺でも気づく」
呆れた口調でそう言うと、一枚の毛布の中にすべりこんで、詞紀の体を抱き寄せた。
「……足、冷てえな。寒いなら、早く言え」
彼の長い足が、詞紀の足と絡まる。アテルイの胸に手を置きながら、鼓動が高く鳴るのを抑えられなかった。
「……アテルイ……あたたかい」
抱きしめられていると、役割のことも何もかも、頭から飛んでいってしまって、後に残るのは幸せだと感じる気持ちだけだった。
そうすると、今まで眠れなかったのに、急に瞼が重くなって、彼の腕の中でまどろんだ。
しかし、そうなったら目を開いてしばらく起きていようとする。――まだこの気持ちに浸っていたくて。
「早く目を閉じろ。眠れねえだろうが」
近い距離で見えるアテルイの顔が、呆れたように苦笑を張り付けている。
「でも、すぐに眠ってしまったら、もったいなくて」
「だったら、これから毎日抱いて寝てやる。当たり前のことになったら、もったいなくもねえだろ」
「……なんか、それは、少し」
ゆっくり体温が上がっていって、顔に熱がたまったように熱い。
肯定か否定か、自分にも分からない言葉を呟きながら、アテルイの腕の中で目を閉じた。
――いつの間にか眠りに就いて、鶏の声が鳴いて目を覚ました時には、朝日が家の中へと差し込む時間になっていた。
(早く用意しないと)
と、体を起こそうとしたら、見下ろす寝顔を側で見つめて、もう一度その腕の中に戻った。
(……もう少しだけ)
彼の頬に手を置いて、うっとり眺めながら、しばらく気だるい朝の時間を楽しんだ。