絡め取られた、





 ふと目覚めると、まだ朝日の出ない早朝だった。
 蔀戸を閉じた寝室は暗い。包むように抱きしめる腕をほどいて、そっと寝台から抜け出すと、手に触れる衣を掴んで夜着の上に掛けた。
 重い扉に手をかけて、ほんの少し開けた途端に、後ろから二つの腕に抱きすくめられてしまった。
「そんなにあられもない恰好で出て行ってどうするんだい、お姫様?」
 甘い声音で囁くのは、恋人である秋篠古嗣である。
「……少し、外の様子を」
「まだ暗いのに、そんな姿で出すわけにはいかないな。僕はこれでも独占欲が強いのだから」
 唇が首筋から頬を伝い、詞紀の唇に触れた。
「……ん、古嗣様、もう朝になります」
「朝になるから、君に触れてはいけないという決まりはないんじゃないかな」
 何だか、その気になっているようだ。詞紀は口を噤んで彼の腕にもたれていたが、
「そういえば、京はだいじょうぶなのでしょうか」
 ――【オニ】、そして古嗣の父である秋篠吉影との戦いが終わってから、京の再建のために数年を要してやっと季封に帰ってきたのだが、また一月は滞在している。古嗣と結ばれて、皆に祝福され、幸せに暮らしているつもりだったのだけど、時々ふと京のことを考えてしまうのは仕方ない。
 その古嗣もしばらく考え事をするように黙っていたけれど、
「心配するのも分かるけれど、だいじょうぶだよ、詞紀。ずっと京に関わっていればいいというものじゃない。僕達の元に集まった貴族達のほうが、僕達よりもよほど政を分かっている。下手に口を出せば厄介がられるだけだ」
「……、そう、そうかもしれませんね」
「だから」
 頷いたのと同時に、古嗣の端正な顔がまた近づいてきて、詞紀の唇を唇で甘く噛む。(しまった)と詞紀は感じたけれど、もう遅い。そうやって絡め取るように唇を奪われた時、詞紀は彼を突き放すことは出来ないのだった。
 羽織った衣が夜着といっしょに肩から滑り落ちる。胸元を繊細な指がなぞって、肩ごしに古嗣の顔が埋まる頃には、詞紀は仰向けになって目を閉じていた。


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