視線が絡み合った途端

 なんとなく縁側へ出てくると、冬の日差しが注ぐ縁側に、長い銀髪の後ろ姿を見つけて、思わず声をかけた。
「何をしていらっしゃるのですか、幻灯火様」
「ああ、詞紀か」
 振り返った顔はいつもの端正な風貌だったが、その両手に小さな猫を抱いている。
 ――そもそも何処かといえば、京にある秋篠家の邸だった。朝は降っていた雪は、正午を過ぎた頃にやんで日が差し込んできた。
 一方、幻灯火は何をしていたかと訊ねてみれば、晴れてきた頃から猫が迷い込んできたのだと話してくれた。それを抱き上げてしまったのは、どういう気持ちか自分でも分からないとの、至って幻灯火らしい答えが返ってきた。
「こういう時は、猫が愛らしかったから、と答えればいいのです、幻灯火様」
 そう言って詞紀は幻灯火の手へ、両腕を伸ばして、猫を抱き上げた。
 首をくすぐりながら抱いていると、甘えるように詞紀の手の中でおとなしくしている。
「とても可愛らしいではありませんか。……こんなことをしている場合ではないのに」
 でも、ふわふわの猫の体に触れていると、いつまでもこうしていたいと思う。
 しばらくそういう詞紀と猫とを見比べていた幻灯火だったが、深く考え込むように首をひねり、
「……ふむ。そういう気持ちにはならなかったが。では、詞紀を見つけた時と同じ気持ちになったと考えればよいのか」
「え?」
 猫の首をくすぐる手を止めて、弾かれたように幻灯火を見つめると、相手もちょうど詞紀を見ていたらしく、視線が合った。
 鼓動が一つ鳴ったのは自覚して、視線を少しずらしてから、
「それは、その……私が猫に似ているということでしょうか」
 真面目な口調でそう聞いた。
 それに対して幻灯火もまた、真面目な顔つきになり、
「そういう気持ちではないと思う。……だが、そうだな、猫とお前はよく似ている、詞紀」
 褒められているのか、分からない。
 分からないまま、詞紀は戸惑いがちに頷いた。――「ありがとうございます」




 簾の裏で聞いていた空疎尊と胡土前が、秋房を両手でがっちりと押し止めつつ、予想外に何も起こらなかったことに対して脱力していた

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ボケ殺しな二人。