なんてつれない




 ――特に用はなかったけれど、顔を見たくなって春香殿まで来たら、御簾の前の廊下に座って、詞紀は猫を抱いて微笑んでいた。
「姫様。猫がお好きですか」
 近づいていって聞くと、彼女は顔を振り仰いで頷く。
「動物はなんでも好きよ。ああ、でも、虫はちょっと苦手だけれど」
 そう言って猫を撫でながら、満足そうに詞紀は笑う。
「猫っていいわね。とても自由で……うらやましい」
 その言葉を聞いた途端、秋房の中で何かが弾けた。


 数日後、両腕で猫を三匹抱えて、秋房は春香殿の廊下を走る。
 野良猫として村を遊んでいるのを捕まえてきたのだ。
「姫様! まだこんなにいますよ!」
 廊下で猫数匹に囲まれて、日なたに座っている詞紀を見つけて、秋房は叫んだ。
 彼女の側まで来ると、しゃがんで腕の中の猫を解放する。その一匹一匹を順に抱き上げながら、眩しい笑みを浮かべた詞紀は、呆れたような目で秋房を見た。
「……あのね、秋房、猫を好きだと言ったけれど、自由にしているものを連れてこなくてもいいのよ。それに」
 ちらりと御簾の奥へ目をやった。姫の部屋は簾を開け放してあり、室内では智則が猫数匹の相手をしている。
「これ以上増えたら、私の部屋が占領されてしまうわ」
「それに、秋房。お前が拾って来たのに、面倒を見なくてどうするんだ」
 非難がましい目を向けてくるのは、智則である。
「まさか、猫を拾ってきたお前が、猫は苦手だとか言わないだろうな」
「そんなわけないだろ、智則。俺だって、ほら」
 と、一匹の猫に腕を伸ばして抱き寄せようとする。茶色の斑がある白い毛の猫は、じっとその手を見つめてから、すいっとそっぽを向いて避けていってしまった。
「……前から、猫が相手にしてくれないんだけど、姫、どうしたら懐いてくれるんですか」
「……ああ、でも、秋房は犬みたいだから」
「それもそうですね。猫と犬は正反対ですから、性格が」
「それは馬鹿にしているのか、褒めているのか? 智則」
 冷静に分析をする幼なじみの言葉が、本心だか冗談だか秋房には読めない。
 また違う猫を抱こうとして伸ばした指先から、猫はまたそっけなく離れていった。

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