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カミもおかしな夢を見る



 目の前にあるちまきに手を伸ばそうとしたら、指に触れる直前に転がっていった。
 それを追っていくと、また先のところで止まって幻灯火の食べてくれるのを待っている。(ように幻灯火には見えた)
 拾おうとすると、まるで糸で操っているかのようにちまきは自分の手から逃げていく。追いかけて、拾おうと手を伸ばして、また逃げられて、を繰り返した。
 三回ぐらい諦めずに、同じことをしていると、次に愛しい姫がちまきを重ねたお盆を両手に、立っているのを出会った。
「詞紀ではないか。いつの間に」
 幻灯火の問いには答えず、彼女はにっこりと微笑んでいる。それは都合よく、幻灯火に「食べてもよい」と勧めていると思った。
 そしてちまきの山に手を伸ばした時、乾いた音を立てて、詞紀の片手が幻灯火の手を叩いた。結局ちまきに手は触れないまま。
 彼女は笑顔のまま、
「いい加減、目を覚ましてくださいね」
 と、言った。強い女性だとは思っている。けれどそれとは違う気迫に、カミである幻灯火が呑まれて、思わず後ずさった。
 その時、目の前にいる詞紀とは、違う方向から詞紀の声を聞いて、彼は混乱した。





「――幻灯火様。起きてください。もうお開きです」
 詞紀の声を最後に聞いた後、幻灯火は目を覚ました。覚めたということは、今まで眠っていたのだ。つまりあのおかしな出来事は全て夢。にも関わらず、自分を覗きこむ詞紀の顔を見た時、幻灯火の体が半ばのけぞるような姿勢になった。
「どうなさいました?」
「……詞紀。起こす時にどこか叩いたのか?」
「いいえ、そこまでは」
「ところで、今ここに積まれているちまきを、私が食べてもよいのだろうか」
 何故そんなことを、というふうに首をかしげながらも、詞紀は「どうぞ」と答えた。いつもの詞紀だ。と、安心する幻灯火だった。



本当はほのぼのラヴの予定だった、と言い訳。

どうしてこうなった。



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