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永久の孤独





 ――京が、燃えている。
 人々は逃げ惑った後で、かつて栄えた大通りには過去の因縁に決着した二人しか残されていなかった。
 一人は跪き燃える空を見上げ、一人はその前に仰向けに倒れていた。
「……俺は死ぬのか」
「ああ、死ぬ。《不死》の力を与えた者が、与えられた者を殺すことが出来るのだからな」
 幻灯火は膝をついたまま、倒れているアテルイを見下ろした。
 《不死》の力を身につけ、二百年を生きていた彼は、――穏やかに微笑んでいた。
「やっと死ねる。……なあ、幻灯火。今度こそ、俺が死ぬまで側にいてくれよ」
「……ああ」
 幻灯火は眉を寄せた表情で、重々しく頷く。
「だが、アテルイ、言い訳をさせてくれないか」
「なんだ? いいぜ、言ってみろよ」
 にやりと笑った瞬間、アテルイは苦しそうに咳き込み、横向きになった体をくの字に折り曲げた。その口から血がこぼれる。体の死期は迫ってきている。
「……早く言えよ、幻灯火。俺に残された時間はそんなにねえみてえだ」
「アテルイ……、私は、お前が大切だと思っていた。だから、何もかもを忘れて穏やかな暮らしが出来るように、右目の力を与えた。そして、私が側にいればまたお前を戦いへと導く。そうならないために離れたのだ」
 そこで言葉を切り、相手の様子を窺がった。アテルイは苦しそうに、短い咳を繰り返して肩を震わせている。
 言葉が返ってこないのは、続きがあるなら早く言え、と促しているのか。それとも、ただ胸が苦しくてそれどころではないのか。
 幻灯火は先を続けた。
「だが、あの時……本当に必要だったのは、そんな勝手な願いではなかったのだな。お前があの時死んでいたとしても、私はお前の側にいるべきだった。独りにするべきではなかった。――済まなかった、アテルイ」
「……やっと、分かったかよ、馬鹿が」
 体を仰向けにしたが、顔は横にそむけたまま、アテルイは低い声で呟いた。
「生かすなら生かすで、なんでお前が消えたんだよ。お前がいない二百年、この《不死》の力は呪いでしかなかった。斬っても突いても死なない男が、女と契れるか? 友誼を結ぼうと思えるか? 皆、避けていくに決まってんだろ」
「ああ……アテルイ、お前の望みを思い違いし、お前の未来を奪った。それは、私の罪だ」
「そうだ、だから」
 アテルイは両腕を伸ばして、幻灯火の顔をがっちり両手で掴んで向かい合う。空洞化した右目からは血がおびただしく流れている。残った左目は強く幻灯火を見据えていた。
「お前は、俺のことを忘れるんじゃねえ。朝廷への恨みを、馬鹿なことをして晴らしてた、馬鹿な友人がいたことを、絶対に忘れるんじゃねえ」
 幻灯火は強く頷いた。残った左の金色の目から、熱いものが溢れてこぼれ、アテルイの顔へ落ちる。眉間に雫が落ちて割れた時、顔を掴んだ手の力が抜けて地面に崩れた。彼は、満足そうな笑みを浮かべたまま、もう動くことはなかった。
「……ああ、忘れぬ。お前は、私の大切な友だ」
 強い口調で言いながら、アテルイの両手を胸の前で重ねてやる。そうしてから立ち上がって、友の遺体を狐火で焼いた。
 京の空に、煙といっしょに灰が舞い上がる。大火の明るさの中で、幻灯火は幼い頃から今までのアテルイの姿を見た。――


(アテルイの幻灯火に対する執着が好きだ。)


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