季封は爽やかな初夏へと移り変わろうとしていた。
日差しは強いが、それほど暑くもなく、子供達の声が響く。
「……これを、こうして、……ああ、また絡まってしまったみたい」
両手の間で玉結びになった赤い紐の輪を見つめ、詞紀が溜息をついた。
「姫さま、へたっぴー！ ほら、こうやってやるんだよ」
小さな女の子が器用に色取り取りの組紐の輪を操ってみせる。――詞紀と同じく、古嗣に教えてもらった綾取りである。
他の子も様々な形を紐の輪で作っているが、詞紀はといえば絡まってはほどき、ほどいてもう一度絡まることの繰り返し。
そうして悪戦苦闘をしている足元に、金色の糸をかがった上質な毬がころころと転がってきた。
「お姫様は、綾取りだけが苦手みたいだね。料理も裁縫も、剣術も得意なのに」
「……古嗣様」
今まで男の子達と蹴鞠をして楽しんでいた恋人である。側に来てくれたのは嬉しいが、素直に喜べもせず、詞紀はそれから一切黙って綾取りを続けている。
一方、女の子達は、やっと古嗣が来てくれたことに大喜びのようで、
「古嗣さま！ わたし、こんなにたくさん作れるようになったのー！」
「わたしのも見てー！」
あっと言う間に幼い子に囲まれる古嗣だった。しかし子供好きなのと、【オニ】との戦いで親を亡くした子供達に同情する気持ちもあるのか、彼は嫌な顔をせず子供達と向き合うのである。
一人ひとり、丁寧に対応してから、
「それで、そちらのお姫様は、どういうふうに出来ないのかな？」
女の子達の間を掻き分けて近づいてくる。
「まだこつを掴んでいないだけです。頭では分かっているので、ご心配なく」
「何だか機嫌がよくないね。……まさか、僕にやきもちかな？」
「何故、そんなことを……」
――体まで重ねる関係だというのに、やきもちを焼いていたら身が持たない。
と、思って、言い返そうとしたけれど、古嗣の顔を見たら何も言えなくなって、顔をそむけた。
「大丈夫だよ、詞紀。僕の心は全て、君のものだ」
そう言って、頬に軽い口づけをする。女の子達が黄色い声ではやし立てた。
一方、詞紀は顔を火照らせ、眉尻を吊り上げ抗議する。
「そ、そういうことは、時と場所を選んでなさってください！」
「では今宵、この続きをしようか」
「こ、子供達の前ですよ！」
今宵、と聞くと、顔どころか体中を血が駆け巡る。混乱して声を張り上げるしか出来ない詞紀の袖をくいと引いて、一人の女の子が首をかしげて言った。
「お姫さまが古嗣さまのこどもをうんだら、わたしたちのおとうとかいもうとになる？」
「え、ええ！？」
あまりに驚いて、詞紀はめまいを覚えた。
その体を片腕で支えて、抱きとめると、古嗣は詞紀の意見も聞かずに、あっさりと答えた。
「そうだよ。お姫様に子供が出来たら、みんなの兄弟として可愛がってくれるよね」
「はーい！」
子供達は元気な声で返事をする。その明るい表情は、いつもだったら詞紀を元気にしてくれるのだけど、今はいたたまれない。
ふっと振り返ると、自分の体を支えるようにして立っている古嗣と目が合った。
微笑する目を細めて、詞紀だけに聞こえるように囁くのは、
「――頑張ろうか、詞紀」
――何を？
と、今更訊ねることはなかったけれど、青くなったり赤くなったりしながら詞紀は力なくうなだれた。……まるで古嗣に対して、肯定の態度を示すように。