外はひどい吹雪だった。
 視界をさえぎる雪を横目に、神殿の中の立ち入りを規制された部屋の扉を開けた。
 室内は灯りもなく暗い。几帳を隔てて、言蔵智則は片膝をつくと、頭を垂れて口を開いた。
「姫様。不都合はございませんか」
「智則。秋房に罪はないわ。だからご長老の方々に、よく言い含めて」
 薄布の向こうから返る声は、ただ一人の心配だけをしている。
 智則は思わず、膝に乗せた拳を強く握りしめた。


吹き荒れる、



 風はやまず、神掲殿から夏瀬殿へ続く廊下に、雪まじりに吹き込む音が轟々とうなる。
 元々足音を立てないように鍛錬場までやって来たが、風の音のせいか、そこにいる人は智則の訪れに気づかないようだった。一心不乱に木刀を振るっている。
「秋房」
 声をかけると、ぴたりと素振りするのをやめて、隠岐秋房はこちらへと顔を向けた。
 智則の顔を見るや、木刀を投げ出し、大股に近づいてくる。
「姫様はどうしてる!? 智則、俺が無理やり連れ出したんだ、あの方は悪くない。だから軟禁を解いてくれ!」
 腕を掴んでゆさぶるように、秋房は必死の表情で訴える。智則はうっとうしく袖を払うと、顔をそむけて言い返した。
「出来るわけがない」
「なんでだよ! お前が俺でも同じことをするだろ!? 姫様のために!」
「俺はお前じゃない」
 秋房に顔を向けて、目を鋭く細める。
「お前と同じことなどしない」
 ――でも、答える智則の心はきりきりと痛む。詞紀を救いたいと思う気持ちは、秋房と同じだから。それでも自分だったら、秋房のようにうかつな方法は取らない……と思う。
 詞紀は、自分をこんな目に遭わせた秋房を、自分のせいにしてまで庇う。(何故?)と考えれば考えるほど、目の前で詞紀と同じことを言っている秋房が憎い。
 思わず彼の襟を両手で掴み、鋭い眼差しで制した。
「……詞紀を宿命から解放したいなら、何故思いつきで行動に移した。俺だったら、お前みたいなことはしない。詞紀を追い詰めたのは、お前なんだ、秋房。そのお前が自分だけ無実だという顔をするのか?」
 智則に襟を掴まれたままにも関わらず、秋房の体がぐらりと崩れた。あっけなく手を離すと、智則は冷めた目で幼なじみの落ち込む姿を見下ろしている。
 秋房は悪く言えば単純、素直な性格だから、過ちを指摘してやればその過ちをすぐに認められる。そして、詞紀を助けたいと思えば、本人にそう口に出来る。智則から見れば無鉄砲だと思っても。
 真似はしたくない。でも、
(……俺には、到底真似できない)
 過ちを犯したのは秋房なのに、彼を視界に映す智則の目は、羨望に満ちていた。
 外では相変わらず、強い風の音がうなっている。

リク:「智則と詞紀で、秋房に嫉妬する智則」