巡る季節が育む
信濃の森は色づきを早め、急ぐ木々はすでに枯れ葉を足元に落としていた。散り残りは、まだ枝にしがみつくように、頼りなく北風に吹かれて揺れている。
そういう落ち葉を踏んでいると、《奥津城》に続く道に探し人が背を向けて佇んでいるのと会った。
「詞紀。何をしている? 体に障るゆえ、戻れ」
「空疎様。申し訳ありません、もう少し」
振り返った彼女が呟いた。
――母への祈りを捧げているのか?
しかし彼女の母の墓標は、目で確認できないほどまだ先の方にある。詞紀は再び向き直った。
考えこんで、返す言葉をなくしてしまった空疎尊に、背を見せたままの彼女が声を聞かせる。
「また冬が訪れます、空疎様」
「うむ。早いものだ。ようやく春が来たと思ったが」
二人にとって、――いや、さらに二人と関係した人々にとっても、《冬》が長く続いているように感じられた。それはいつ終わるとも知れなかった。
けれど今年、やっとあたたかい日差しが差し込んで、互いが隣に立つ温もりを覚えた。
その春が過ぎ、夏秋と過ぎて、現在になる。
「これからの冬は、きっと今までとは違う季節になると思いますよ」
詞紀が振り返った。寒い風が吹いているというのに、眩しい微笑みだった。
ちらと《奥津城》のほうへ視線を向けてから、空疎尊を真っ直ぐに見つめた。
「母様には、先に報告いたしました」
そして隙間を埋めるように彼の懐へ入ってくると、つま先立ちに唇を耳元へ近づけて、やさしくやさしく囁いた。
「お腹に、空疎様のお子が」
一瞬、思考が止まった空疎尊の目に、詞紀の微笑みが再び映った。
「あなたはもうお一人ではありませんから」
詞紀が見守るように目を細めて笑った時、思わず両腕を伸ばして彼女の体を胸の中へと閉じ込めた。
愛しいものがまた一つ増えることに、ただ心が動いた。