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(空疎尊+詞紀)



 吹き抜ける風が冷たくなった。
 秋が終わり、冬が来ようとしている。いつも悲しいこと、切ないことは冬に訪れたから、詞紀はいつも憂鬱になる。
「どうした、詞紀」
 傍らで、恋人の訊ねる声がした。春香殿の廂の下を、神謁殿へ歩いている途中だった。
「え……何か、声にしたでしょうか」
「貴様は、自分が溜息をついたのも自覚していないのか」
 憂鬱な気持ちは、はっきりこぼれてしまったらしい。
 今度は、空疎尊のほうが息を吐いた。
 黒の外套が風を孕んで広がり、彼の片腕が詞紀の体を抱き寄せる。
「あ、あの、空疎、様……」
「我と二人でいるのに、ふさいだ顔をするな。……それから、貴様を苦しめる冬は疾うに終わったのだ。いつまでも思い出すことはない」
 咎めるような口調なのに、心に届く声はとても温かい。
 少し、その腕の中で身を預けて、しばらくその余韻に浸った。そうすると、幸せな記憶だけが頭の中に残った。

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